漁業振興基金とは
沖縄県漁業振興基金とは。
戦後、昭和27年の日米講和条約発効から昭和47年の復帰までの間、米軍による立入禁止や操業制限によって沖縄県漁民が被った被害に対し、日本政府から特別支出金として拠出された30億円を基本財産とし、種々の漁業振興事業を営むために設立された財団法人です。
Ⅰ.特別支出金獲得の政府折衝経緯
1.講和条約発効から本土復帰までの間、米軍の訓練、演習、保安等のための使用により、立入禁止及び操業制限等がなされ沖縄県漁民は多大な損害を被った。これらの漁業損失補償(最終的には「特別支出金」としての取扱いになる。)については、米国当局と日本政府に対して補償要求を行って来た。
その最初の補償要求は、昭和37年11月12日付けで琉球漁業協同組合連合会外8組合連署による米国高等弁務官への漁業損失補償陳情書(行政主席経由)を提出し、その後、組織的に取組むため昭和38年6月1日に13組合による漁業損害補償獲得協議会を結成し、損害補償の請願について種々検討を重ね、昭和41年2月9日同協議会外3団体から琉球列島米国土地裁判所に読谷漁協外7漁協の訴願書を提出した。同種の訴願はその後も順次追加され、復帰前においては17件の訴願を同裁判所に行った。
復帰後は、昭和48年11月9日米国土地損害賠償請求審査委員会(沖縄返還協定第4条第2項による米国の機関)に対し、佐敷村漁協外13漁協の漁業補償を訴願した。訴願はその後追加され、昭和49年7月10日までに合計40件に達した。このように、全組合が訴願して裁判係争を行ったが、これらの訴願は和解の1件を除き、昭和50年5月22日までにすべて棄却された。
2.米国との裁判係争と平行して、復帰前より国(日本政府)に対しても肩代わり補償を陳情して来た。
復帰前には昭和46年3月23日、同年8月8日と昭和47年3月13日の3回同趣旨の陳情が行われ、昭和47年3月13日は同協議会、琉球漁業協同組合連合会、琉球水産協会、組合長会より関係省庁あて「講和発効後の米軍使用のための立入禁止及び操業制限等による漁業損害補償について」の復帰前最後の陳情書が提出された。
復帰後は、昭和49年7月26日付けをもって県漁連、組合長会、同協議会等連署で沖縄開発庁長官に対し、補償についての陳情要請書を提出。同趣旨の陳情はその後5回行い、最終的には昭和52年7月20日同協議会、県漁連、信漁連、組合長会より補償要求の陳情を行った。その結果、「アメリカ合衆国がやらねば、日本政府でやる」との回答に接した。
3.獲得協議会は、「漁業損失補償」として陳情してきたが、国は「沖縄が米国の統治下にあったために補償は不可能であり、特別支出金として取り扱う」旨の意向を当初から主張していたために、協議会の総会で特別支出金の末端配分の不可能生を確認し、漁協が受けて漁協の資金として使用できるよう国に要請することを決め、要請を行った。
折衝中途で、政府からは沖縄の戦後処理を強調し、沖縄県返還協定放棄請求権等補償推進協議会(県及び市町村で構成、昭和48年5月18日設立)から政府へ提出された漁業補償関係についても獲得協議会で一括するよう指示があり、同推進協議会との間で協議の結果、獲得協議会で取り扱うことが決定され、講和前も含めて補償要求を開始した。その後も補償交渉は数回行われたが、この要求額は漁協からの数字を積み上げたもので、算定基準もバラバラのため獲得協議会で議論した結果をもとに、講和後の分として35億円補償してもらいたい旨再度要請を行った。
4.これに対し、政府から提示された額は、20億円(琉球政府の統計資料による漁獲高を基礎に防衛施設庁が算定して提示された額)であった。この提示額について検討するために獲得協議会は小委員会を設置し、充分検討を行い、更に獲得協議会の総会において、再度補償額として35億円前後の要求をすることを決定し、これを受けて関係機関で陳情団を結成して、再度にわたり日本政府や国会議員に対し折衝を行った。
その結果、会員各位のご協力、関係官庁のご尽力、県選出の国会議員の方々、その他関係各面のご支援ご協力により、昭和52年9月7日特別支出金として総額30億円を3年分割払いで交付することが確定し、昭和53年度を初年次として3ヶ年間で交付されることになった。
この30億円の確定までには、実に15年余の歳月を要した。その実現をみるまでには、関係省庁のご尽力、県選出国会議員の諸先生方及び県等関係各位の多大なご支援とご協力並びに漁協、系統団体等会員各位のご協力があって長年の悲願が達成できた。
Ⅱ.特別支出金の受け入れ
1.この特別支出金については、前述のように当初対米請求権に基づき漁業損失補償金として国に要求して来たが、①国では、法的に補償金の支出は不可能であるため、特別支出金として交付することになったこと、②30億円の算出については、沖縄県全体一本の積算であり、その内訳はなく、したがって市町村、各漁協、任意団体及び個人別に算出された数字ではないため、分配はできないこと、③そのため、特別支出金の受入方法、運用方法、非課税問題等について国、県、漁業団体間で検討した結果、県一本で新設予定の財団法人の基本財産に受け入れ、その運用益をもって沖縄県の漁業振興に役立つ事業を行うという沖縄側の構想に賛同が得られ、沖縄開発庁もその線で予算要求を行ってきたため、この構想に変更を生じた場合、予算措置、特別支出金の交付に支障をきたすことになる。以上の経過から、この特別支出金を受け入れるための公益法人の設立を急ぐことになった。
2.その対応策を協議するため、漁業損失補償獲得協議会は一応その目的を達成したということで、昭和53年5月16日に発展的に解消して、同日付で新たに漁業損失補償対策協議会を設立し、また、協議会の下部組織として特別支出金対策委員会を設け、種々協議を重ねた結果、審議の過程では経緯が末端まで充分説明が行き届かないため一括運用については若干の異論はあったが、この特別支出金の性格と経過、更に漁業者並びに漁協の納得する公正妥当かつ合理的配分は極めて困難であるため、委員会は昭和53年6月26日、対策協議会は昭和53年7月5日、それぞれ会合を開き、「基金」を設立して、特別支出金を同基金に一括して受入れることを決定するとともに、沖縄県漁業振興基金設立準備委員会(7名)を発足させた。
Ⅲ.基金の設立
1.経緯
(1) 基金設立準備委員会は、特別支出金対策委員会(第4回、昭和53年6月26日)の決定事項をふまえ、設立準備作業を進める一方、先進県の類似法人の視察(昭和53年6月13日~15日)や水産4団体から県に対し同基金への出捐要請(昭和53年9月1日)を行うなど万全を期して作業を進め、諸準備が整ったため昭和53年9月27日に準備委員会の会合を開き、財団法人沖縄県漁業振興基金の設立趣意書、寄附行為、業務方法書等の案を決定した。そして10月6日には漁業協同組合長会が基金設立を了承、10月13日には対策協議会の臨時総会で、設立趣意書、寄附行為、業務方法書を可決し、同日基金設立発起人(4名)も選出された。
(2) 昭和53年10月27日、基金設立発起人と県は沖縄開発庁を訪れ、対策協議会の審議状況の報告、特別支出金の受入れ手続きや特別支出金の交付要請の方法等の調整を行う一方、県漁連及び信漁連は、昭和53年10月30日の臨時総会で基金への基本財産の出損(各50万円)を決定した。
(3) 昭和53年11月1日、設立発起人会を開催し、財団法人沖縄県漁業振興基金を設立すること、公益法人設立の許可申請を行うこと等を決め、同年11月2日、発起人会から県知事あて財団法人沖縄県漁業振興基金の設立許可申請書を提出、同年11月15日づけで県知事の許可、同年11月20日設立登記を完了した。
(4) 昭和53年11月27日、県と対策協議会、県漁連、信漁連の3団体が上京し、沖縄開発庁長官あてに特別支出金を、新設された基金の基本財産に交付されるよう要請書等を提出するとともに、関係省庁等に基金設立を報告。ここに基金が国から特別支出金を受入れ、一括運用して、その運用益で漁業振興に資するための事業活動ができる体制ができあがった。
2.設立年月日
① 昭和53年11月 1日 設立発起人会
② 昭和53年11月15日 沖縄県知事より設立認可
③ 昭和53年11月20日 法人登記
3.設立趣旨書(原文掲載)
最近における我が国の漁業をめぐる諸情勢は、水産資源の減少若年労働力の逼泊、沿岸海域における漁場環境の悪化、沖合及び遠洋における国際的漁業規制の強化等、極めてきびしい状況下にあります。
このような情勢に対応し、漁業の振興をはかることは決して容易ではないと思料されます。本県漁業の将来を考える時、我々は系統団体が更に団結し、県ならびに市町村と一体になって諸問題に対処していかなければならない事を痛感致しております。
今回我々が長年にわたり国に対し強力に要請してきた沖縄の本土復帰前に米国軍隊の漁業操業制限等により本県漁業者が蒙った漁業被害に対する補償要求については、最終的に「国はこれらの漁業補償については法的に責任はないが、特別支出金として沖縄県下の漁業者の漁業振興に寄与するため関係法人に対し一括して交付する。」ことになり、これによって昭和53年度を初年度(10億円)として、3ヶ年で30億円を特別支出金として交付することになりました。
この特別支出金について種々検討してまいりましたが、この特別支出金の性格と更に漁民ならびに漁協の納得する公正妥当かつ合理的配分は極めて困難であるため、我々は県の強力な行政指導と政策的バックアップを受け、当該特別支出金を基本財産として「財団法人沖縄県漁業振興基金」を設立して、その基金の運用益をもって漁業振興対策、漁業公害対策、漁民福祉等の事業を積極的に推進し、立ち遅れている本県の漁業振興、漁民の経済的、社会的地位の向上を図る必要がある。
4.基本財産造成状況
基本財産の造成は、国30億円、県3億円、両漁連3百万円を3ヶ年計画で33億3百万円造成する予定であったが、国30億円、県9千万円、両漁連3百万円が昭和53年度から昭和55年度までの3ヶ年間で造成され、そのほか毎年度の剰余金(繰越収支差額)からの繰入れも行い、平成21年度末現在3,323,103千円となっている。
単位:千円
出捐者 |
昭和53年度 |
昭和54年度 |
昭和55年度 |
55年度以降 |
合 計 |
国 |
1,000,000 |
1,000,000 |
1,000,000 |
0 |
3,000,000 |
沖縄県 |
30,000 |
30,000 |
30,000 |
0 |
90,000 |
両漁連 |
1,000 |
1,000 |
1,000 |
0 |
3,000 |
剰余金繰入 |
0 |
0 |
10,000 |
220,103 |
230,103 |
合 計 |
1,031,000 |
1,031,000 |
1,041,000 |
220,103 |
3,323,103 |